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「銀河鉄道」 [言葉orイラスト]

DSC01510.jpg


  ランプから流れるアセチレンの匂い。

  気付けば私たちは同じ車両にいるという

  当たり前の奇跡に揺られている。

  押し黙ったまま窓に映る自分の顔を見つめ

  流れる光を追いかけて。



  それぞれのポケットには

  行き先の書かれていない切符が入っている。

  みんなどこまで行けるのか

  自分では分からないまま。



  沢山の人が降りていった。

  小さな男の子が私の腕をそっと掴んで

  それから名残惜しそうに列車を降りたこともあった。

  車掌に肩を叩かれる前に自分で途中下車した

  彼女のことはもう顔も思い出せないけれど

  その切符が風にちぎれて

  飛ばされていったのは覚えている…。



  ふと気づけば

  いつの間にか私の傍らに二人の子供。

  その切符の白さに驚きながら

  自分の手垢に汚れた切符を重ねて

  ここまで来たその距離を思う。

  どこから来たのか

  どこへ行くのか    



  星の夜をくぐり抜ける列車で

  どこまでもどこまでも私たちは運ばれていく。

  押し黙ったまま窓に映る自分の顔を見つめ

  やがて来る呼び出しの時を思いながら。

  同じ時代に生きるという

  当たり前の奇跡に揺られながら。


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コメント 7

ボルチ

違う世界に行く階段ですね。
by ボルチ (2009-09-14 12:54) 

chichiの母

素晴らしいのひと言です…。
感性=写真の素晴らしさは前から充分に
感じていましたが、言葉使いが凡人じゃないです。
下車した時にお父さんが迎えに来てくれていたらいいな、
なんて真面目に思いました。
by chichiの母 (2009-09-14 16:34) 

masugi

そうなんですよね。本当はこの文章は、

「再生を繰り返しすぎて
ノイズの入り交じるあなたの記憶。
さよならと手を挙げた後ろ姿が
夏の光に溶けて」

から始まっていたんです。
亡くなった父の後姿のイメージが見えて。
それがなぜか列車の扉をくぐるところ
みたいだ…と、そのイメージを追っていたら
全然違う文章になってしまいました。
で、冒頭の文も切ってしまいました(笑)。

自分でも書こうと思って書くというより、
何かのきっかけでずるずる言葉が出てくるので、
出てきてから「こういう話だったのか」と思うばかりなんです☆
変なの、と言われてしまえばその通りなんですが…。
by masugi (2009-09-14 16:45) 

engrid

私のポケットの切符、、、まだもっている
行先は  もう汚れてきて使い古し
パンチの穴は まだあけてない
by engrid (2009-09-14 23:47) 

lotus☆

ステキな文章ですね。
ぐいっ。とそちらの世界に引き込まれるような。
お昼の時間じゃなかったら、トリップから帰ってこれなかったかも^^*
by lotus☆ (2009-09-15 12:58) 

HUDSON

思いの丈に手を差し出す
 
私の切符はどこにあるのだろう
確かあったはず?。

乗り継ぎの切符を渡す人が居る。

そんな気持ちになりました。
by HUDSON (2009-09-16 07:35) 

secretariat

masugiさんて、とてもスマートな方ですね。
ゆっくり過去記事も読ませて頂きますね^^
これ以前は、nice!とコメントは自粛しますので・・・。
by secretariat (2009-09-26 20:03) 

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